はなののののはな

前記事で、突然漢字のことを書き出したのだけど、実は伏線というか理由がある。

日本語を教えていると、最初は当然のように、ひらがな・カタカナを教えることになる。そして少しずつ漢字も教えていくわけなのだけど、

学生の中には徐々に自分で、漢字の「表意」の部分に気付いて意識的に漢字に切り替えていく学生もいるのだけど、なかなか「漢字」を書き出せずにいる学生も少なくない。

まあ、「難しい」「面倒くさい」と思って書かない、覚えない学生がいるのは、ベトナムに限らず万国共通なのだけど、中には、真面目で授業中の反応も良く、試験の成績も良いのに「全てひらがな表記」と言う学生もいる。

このタイプの学生は、(経験的になのだけど)概して頑固で、理屈で納得しないとやらない。要するに、まだ「漢字で書かなければならない必然性」に、その学生が気付いていないんだな。でも、(僕的に)手遅れになる限界点が近づいて来ているので、さてどうしたものかと思案していた。


ところが、ある日の試験で、「頑固にひらがな表記」の学生が、思わぬミスで満点を取り損なってしまったのだ。本人は自信満々だったのだが、残念なことに、動詞の活用、つまり送りがなの間違いに気付かなかったのだ。


はい、チャンス到来。

これ、ひらがなじゃなくて、漢字で考えていれば間違えない問題だったのだな。

さ、一気に行っちゃいましょうか(笑)

僕は黒板に向かって、おもむろに
谷川俊太郎さんの「ののはな」と言う詩を書き始めた。


はなののののはなはなのななあになずななのはななもないのばな

『ことばあそびうた』谷川俊太郎 より


これは、原作がひらがなで書かれているのだが、もちろん漢字仮名交じり文にも直さず、しかも、わざと改行位置を変えて書くところがミソでして…

実は、日本の学校や予備校、塾の国語の授業で「詩」を教えるときに「リズム」を掴むことが大切だと話す教材としていつも使わせていただいている。そして、外国人や、外国にルーツを持つ学生に日本語、あるいは国語を教えるときは、「表意文字」と「表音文字」の違いを認識させるときに使うのだ。

さてさて、チームNの学生たち、僕が書く一字一字をそのまま追いかけるように読んでいくのだが、さっぱり意味が取れずに、笑い出す学生もいる。

そこで、次に単語に切ってやると、、、、、あ〜!と大声をあげる学生が数人出てくる。このあたりは年齢、学年に関係なく日本人の反応と同じである。つまり、単語レベルでいくつか知っている語に気付くわけだ。

日本人相手だと、そのあとリズムを掴めばわかるでしょ?って進むわけだけど、ここはベトナム、ダナンの教室なので、、、、漢字仮名交じり文に直すわけですな。


花の野 野の花 花の名 何 なずな 菜の花 名もない 野花


「なずなと菜の花は、花の名前です。」ここで、ベトナム語を投入して、野原、野花と一気にたたみ掛け

「漢字を書いたら、わかりますね。簡単な日本語です」

さらに、今回の試験で出てきた「同音異字語」「同音異義語」を含む単文を黒板に「ひらがな」で書き出し、「わかりますか?」

「わかりません…」

「みなさんの試験を見ていて、ひらがなで書いている答えは、日本人の僕にもわかりません。日本人は、漢字で意味を理解しながら読みます。そして、日本人も、みなさんと同じです。みんな一生懸命書いたり読んだりして、漢字を勉強します。みなさんには常用漢字表があるから、意味も勉強できますね。」とたたみ掛ける。

全員、呆然として頷くしかない。

ふふふふ。この瞬間が快感なんだな。



ところが、思わぬ異変が起こった。

一部の学生には、既に「そんなことは当然でしょ!」という雰囲気が漂っていたのだ。

これは、想定外。

「先生!だから先生とHさん(ハノイの教え子)は、私たちに常用漢字表をプレゼントしました。先生は、ベトナム語と漢字を書いたプリントを作ります。私たちは勉強します。漢字はオモシロイです。でも、この表には、書く順番を書きません。」

そうなんだよね。

学生が持っている、あるいは学生の周りにある教材、教具の中で、書き順が載っているものは、僕が買って来て教室に常備している「常用漢越熟語辞典」だけなのだ。

さらに、自習用に渡してあるテキスト準拠の漢字教材を取りだして

「先生、この本は、漢字のあとのひらがなを覚えません。動詞の勉強ができません」

そう。送りがなを無視して、漢字だけを書かせる練習問題があるんだよね。これ。


痛いところを突かれた、、、と言うか、学生の中にはもうとっくに「表意文字としての漢字」に気付いて、勉強方法を試行錯誤している学生が少なからずいたのだ。どうりで、漢字テストの平均点が高いと思った(笑)。


と言うわけで、漢字教材は自作するしかないか…と、思い立ったわけなのだが、、、
実は、漢字についてはもう一つ、僕に火を点けた出来事があったのだ。話は更に一週間前に遡るのだが、、、、、、

後半へ続く。


【お断り】

本日の記事中、谷川俊太郎さんの詩集『ことばあそびうた』より「ののはな」を引用させていただきました。ありがとうございました。

ちなみに、俊太郎さんのお孫さんは、某学園女子部での教え子だったりします。
お祖父ちゃんによろしくお伝えください(笑)


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