「千字文字典」と「四書」を買って思うこと

みんな忘れていると思うけど、僕の専門は「中国古典文学」「中国史学史(「史記」の注釈史)」である。
大学で専門に「日本語教育」を学んだわけではなく、もとより、「看護学」であるはずもなく(笑)

と、いきなりこんなことを書いたのは、先日来、中国学方面、そしてベトナムでの漢字教育関連の血が騒ぎ出したからである。


先日、偶然知り合ったダナン大学で日本語を学ぶ学生(と言っても、いつもの日本食レストランに新しく入った店員なのだが…)とアイスクリームを食べながら話していて、「漢字がオモシロイ。大好きです」なんて言うので、「漢和越辞典を売っている本屋を知らないか?」と聴いてみたのだ。

ダナンにある本屋は、見かける度に覗いているのだけど、なかなか良い「日越辞典」に出会うことができず、まして「漢和辞典なんて…」と思っていたのだけど、意外なことに「ある」と言う。

それで、どこどこ?となったんだけど
なんと、うちの大学の近くじゃないですか。しかも、僕が文房具屋だと思い込んでいた店の奥らしい。よく食べに行く「コムガー(鳥飯)屋」の斜向かいだし(笑)

早速、バイクに乗せてもらって行ってみたのだけど、驚いた。
外国語学習関係、外国語関係の辞書専門店だったのだ。

それに、、、、ダナンに来てから入手できず、結局ハノイの書店で教え子が見つけて送ってくれた「常用漢字表」までも、時折入荷するというのだ。

灯台もと暗し ですな。

で、目指す「漢和越辞典」はなかったのだけど、彼女の通訳でお店の人に尋ねたところ「なかなか入荷しないけど、もし入ったら連絡します」と言ってくれて、名刺を置いてきたと言う次第。


そして、昨日、、、もう一昨日か、
日曜日の夕方ふらりと行ってみたところ、掘り出し物ですよ。

「千字文字典」と「四書」

「千字文」は古代中国から日本へ漢字が伝来した時の、その大元の書とされている。まあ、本当に「千字文で漢字が伝来した」かどうかは、歴史学的には眉唾物なのだが、一応そう言うことになっている。そして、その漢字の伝来経路としては、日本もベトナムも同じなのだ。

日本は、仮名文字へと簡略化の道を辿り、そのおかげで今も漢字を使っているのだが、ベトナムは逆に、チュノムと呼ばれる「ベトナム漢字」を創造、複雑化の道を辿り、やがて漢字を捨ててローマ字表記だけが残ったと言うわけだ。

その結果、日本人は読もうと思えば「古文」「漢文」の読解手法を用いて古の資料を読むことができるのだが、ベトナム人は古典資料を読むことができなくなってしまった。

このことは、「日本ベトナム教育セミナー」では2002年の第1回の時から僕が指摘し続け、ベトナムの国語の先生たちと議論を交えてきたことでもある。ベトナムの国語教育の中で、古典復興の考え方も少数派ながら存在し、その方向に向かいつつあると聞いている。

そんな経緯もあって、今までもハノイの本屋で「千字文」関係の本を探していたのだけど、薄い簡単な現代ベトナム語に訳した本は入手していたものの、

  

こんなに細かく、一字一字解説し、更に筆記練習のページまで付いている本には初めて遭遇したのだ。


そしてもう1冊。「四書」

中国の「四書・五経」の「四書」、「大学」「中庸」「論語」「孟子」の一字一字にベトナム語音を振り、現代ベトナム語の対訳が付いている。
これで、ベトナム語の勉強しちゃおうか、、、と言うわけで、2冊とも買ってしまった。合わせて264,000VND。

財布の中を見ると、20万ドン札が数枚と、あとは細かい紙幣があったので40万4千ドン出してレジへ。

若い女性の店員が、2冊の本と明らかに日本人の僕の顔を交互に見つめて、微笑を浮かべながら厳かに発した言葉は、、、「20万ドン」

値引きでっか?

どういう事情かわからないけど、ありがたく20万ドン札1枚を払った。
「この日本人、何でこんな本を買うんだろう?」と思ったのは当然として、もしも、「ベトナムの漢字文化に興味を持っている、オモシロイ日本人」だと思って値引いてくれたのだとしたら、嬉しいよね。


今、ベトナムの日本語教育の教壇に立って、あらためて思うのは
「漢字教育」がキーポイントになると言うこと。

もともと漢字文化の強い影響を受けていたことで、多くの漢越語が存在し、日本語の音読みとの共通語彙も少なくない。


これ以上書くと、長くなりそうなので避けるけど、
ベトナム人学習者用の、「使える」漢字学習教材の開発ってのが急務であると考えている。

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